【お寺の掲示板】2020年12月のことば
みなさんこんにちは。
今回は西円寺で行っている掲示伝道について紹介いたします。
塀の上から顔を覗かせている大きな掲示板には、富山教区が発行している法語ポスターを掲示しています。
「老病死を見て世の非常を悟る」(『仏説無量寿経』)
「本願力にあいぬれば むなしくすぐるひとぞなき」(親鸞聖人『高僧和讃』)
「人間は偉いものではない 尊いものです」(安田理深)
そして門前には、若院が書いた言葉を掲示しています。
「なんにも取り柄がない人間がただ生きていても、なんにも責められない社会というのが正常です」(山田ルイ53世)
ワイングラスを片手に「ルネッサーンス!」と陽気に叫ぶギャグで有名になったお笑いコンビ・髭男爵。
そのメンバーでシルクハットがトレードマークの山田ルイ53世さんが、自身の引きこもり体験について語った読売新聞のインタビュー(2016年6月2日朝刊)から引用させて頂きました。
中学2年生の時にある出来事がきっかけで引きこもりになってしまった山田さん。
最初は「とりあえず1週間だけ」と思っていたものの、有名な私立中学に通い近所では「神童」と言われていただけに、周囲への劣等感から中々学校に戻ることが出来ず、引きこもり生活は6年間に及びました。
“ 社会復帰を考えても、自分が最高潮だったとき思い描いた将来は絶対に無理だと思い、また落ち込む。自分を許してあげられなかった、あきらめてあげられなかったのが、苦しむ原因になりました ”
(インタビューより)
20歳の時にニュースで成人式に出ている同世代の姿を見て一念発起し、愛媛大学の夜間コースに入学。
その後大学を中退して上京、髭男爵を結成しました。
山田さんは引きこもっていた6年間について
「ムダやった」
と振り返っています。
しかし同時に
「そのムダが許せないのが一番問題なのかなと思う」
と語っています。
“ みんながキラキラしてないとだめだっていうのはウソです。みんなが輝かしいゴールを切れるわけでもないのに、「みんなそうなろう」という風潮がありすぎる。
なんにも取り柄がない人間がただ生きていても、なんにも責められへん社会、いうのが正常です ”
(インタビューより)
私はこの言葉を見た時に、「これってお浄土のことじゃないか!」と思いました。
お浄土はあらゆる人に開かれた、あらゆる人に居場所が与えられる世界です。
自分の理想を実現できずに劣等感に沈んでいる人も、世間から「役立たず」とレッテルを貼られて爪弾きにされている人も、見捨てずに受け入れる世界です。
そして親鸞聖人はお浄土とは単なる理想郷ではなく、阿弥陀如来の智慧によって形作られた「真実の世界」であると、繰り返し説かれています。
逆に組織や社会の中で役に立つ人、自分の叶えたい夢を実現できる人が「勝ち組・成功者」と持て囃され、それが出来なければ見放される様な私達の在り様に対して、
「煩悩具足の凡夫、火宅無常の世界は、よろづのこと、みなもてそらごと、たわごと、まことあることなき」
(『歎異抄』)
と説いておられます。
そして、この世界に満ち溢れている
「優れた人間になれ、人が羨む人生を送れ、そうでないと生きる価値がないぞ」
という嘘偽りに振り回されることなく、
「私には帰るべき世界、待っていてくださる仏様がおられるのだ」
と信じて、仏様の名「なむあみだぶつ」を呼び続ける人生を送るように私達に伝えてくださったのです。
長く辛い引きこもりの経験から、
「挫折してもいいんだ、キラキラと生きる必要なんてないんだ」
と、のびのびとした人生観に達した山田さん。
その言葉を通して、あらためてお念仏の教えを味わわせて頂いたことであります。